物件情報
以下は今回診断する物件の概要です。
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物件名: 東京都杉並区松庵2丁目 三鷹台駅 貸店舗・事務所
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掲載元: OCN不動産
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住所: 東京都杉並区松庵2丁目
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最寄り駅: 京王井の頭線 三鷹台駅 徒歩15分、JR総武・中央緩行線 西荻窪駅 徒歩13分、京王井の頭線 久我山駅 徒歩18分
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賃料: 242,000円
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管理費等: - (なしと仮定)
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敷金/礼金: なし / 1ヶ月 (24.2万円)
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保証金/敷引・償却金: 3ヶ月 (72.6万円) / -
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使用部分面積: 68.2㎡(約20.6坪)
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種別・構造: 貸店舗・事務所・鉄骨1階/地上5階地下1階建
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築年月(築年数): 1973年5月 (築52年3ヶ月)
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特記事項:
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飲食店可(現状はカフェバーの居抜き)
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民泊相談可能!
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地下1階に倉庫あり
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契約期間3年
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現況居住中、引渡可能時期相談
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短期解約違約金:1年未満の解約の場合総賃料の1ヶ月分
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初期費用: 礼金1ヶ月、保証金3ヶ月、初回保証料(詳細要確認)、保険加入要、仲介手数料1.1ヶ月
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契約期間: 3年
詳細はこちらのURLをご参照ください: 物件詳細
民泊適正評価:都心の「相談可能」物件は、希望とリスクのせめぎ合い
この物件の民泊適正は「都心近郊で民泊を検討するが、杉並区の厳しい規制と築52年の改装費用をクリアできる、非常に限られた上級者向け」と評価します。「民泊相談可能」は、あくまで「可能」であり「許可」ではありません。
【メリットとして期待できる点】
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「民泊相談可能」という糸口: 都心で民泊が可能な物件自体が希少な中、貸主が「相談可能」としているのは大きなアドバンテージです。旅館業許可への理解がある可能性があります。
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広さ68.2㎡のワンフロア: 広々とした空間は、複数人での利用や、工夫次第で高単価設定が可能です。
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「カフェバー居抜き」という現状: 内装の状態にもよりますが、水回り(トイレ、キッチン)が既に整備されている可能性があり、その分改装費用を抑えられるかもしれません。しかし、客室として利用するにはさらに手を入れる必要があります。
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地下1階の倉庫付き: 運営に必要な備品やリネン類を保管できるスペースがあるのは便利です。
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都心近郊の好立地:
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三鷹台駅は吉祥寺の隣駅であり、三鷹の森ジブリ美術館へのアクセスも良く、インバウンド需要も見込めます。
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西荻窪駅も徒歩圏内で、中央線沿いのサブカルチャーや飲食店街も魅力です。
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落ち着いた住宅街なので、長期滞在を希望するビジネス客やファミリー層にもアピールできます。
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【致命的な欠点】杉並区の厳しい規制と築52年の「居抜き」改装費用の闇 メリットを凌駕する、深刻な懸念点が多数存在します。
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杉並区の民泊・旅館業規制の厳しさ: 杉並区は、東京都の中でも特に民泊・旅館業の規制が厳しい区の一つです。用途地域によっては**「土日のみしか行えない」など、営業日数の制限が非常に厳しい**場合が多く、年間180日制限の住宅宿泊事業法(民泊新法)すら難しい可能性があります。この物件が所在する「第一種住居地域」は、通常、ホテル・旅館の設置が制限される場合が多く、旅館業許可は非常に困難です。事前に区役所と保健所への徹底した確認が必須です。
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築62年の鉄骨造と「居抜き」からの改装費用:
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「カフェバー居抜き」は、キッチンやカウンターが残っている可能性が高いですが、それを宿泊施設として機能させるには、浴室の設置、ベッドスペースの確保、内装の全面改修、耐震診断と補強、電気・給排水設備の全面的なチェックと改修など、大規模な工事が必要です。
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築52年の鉄骨造とはいえ、配管の老朽化や電気容量の不足など、想定外の費用が発生するリスクが非常に高いです。写真がないため、現状は全く不明であり、改装費用は数百万円〜1000万円以上となる可能性が高いです。
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「貸店舗・事務所」を宿泊施設へ用途変更する場合、建築基準法上の手続きや追加の改修費用が発生する可能性があります。
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駅徒歩15分という距離: 都心では「駅近」が基本であるため、徒歩15分は観光客にとって少し遠く感じられる可能性があります。特に荷物が多い場合や悪天候時は不便に感じるでしょう。
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定期借家3年という短期間: 莫大な初期投資を回収するには短すぎる期間です。契約終了後の更新が保証されないリスクや、更新時の賃料改定リスクを考慮すると、事業計画の不確実性が高まります。
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「現況居住中」「引渡可能時期相談」: すぐに開業できない可能性があり、その間の賃料が発生します。
契約前に確認するポイント
この物件で民泊運営に踏み切るなら、以下の点を徹底的にクリアにしてください。
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杉並区における民泊・旅館業許可の実現可能性と条件:
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最重要事項です。杉並区役所の担当部署(住宅政策課、保健所)に、この物件の住所と「第一種住居地域」という用途地域で、**住宅宿泊事業(民泊新法)または旅館業(簡易宿所など)の許可が取得可能か、その条件、必要な工事、年間営業日数制限などを具体的に問い合わせる。**特に、2階が既に旅館業を運営している場合でも1階で新たに許可が取れるか、騒音対策の必要性なども確認する。
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事実上、杉並区では民泊(住宅宿泊事業)の許可取得は極めて困難です。旅館業許可を目指すにしても、用途地域や建築基準法、消防法などのハードルは非常に高いです。
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「カフェバー居抜き」からの改装費用の詳細な見積もり:
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必ず内覧を行い、建物の構造、水回り(浴室の有無、給排水設備の状況)、電気容量などを専門家(工務店、建築士)を帯同して徹底的にチェックする。
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民泊(簡易宿所など)として必要な浴室・トイレの設置・増設、ベッドスペースの確保、内装の全面改修、耐震診断と補強、消防設備設置など、全ての改修費用を複数社から見積もりを取り、全て借主負担であることを覚悟する。写真がないため、費用は想像以上に高額になる可能性があります。
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定期借家契約の詳細と更新の可能性:
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3年契約終了後の更新の有無、更新料、更新時の賃料改定など、契約更新に関する条件を貸主と明確に確認し、書面に残す。
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消防法・建築基準法への適合:
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管轄の消防署や建築指導課に相談し、必要な設備(自動火災報知設備、誘導灯、避難器具、防火管理者選任など)とその費用、必要な工事を確認する。築古の建物であり、用途変更を伴う場合、基準が厳しくなります。
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周辺地域の宿泊施設の競合分析とターゲット設定:
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三鷹台・西荻窪周辺のホテル、既存民泊施設の料金帯、稼働率、ターゲット層を徹底的にリサーチする。
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この物件がどのような層(例: ジブリ美術館訪問者、落ち着いた滞在希望者、長期滞在ビジネス客など)に響くのか、具体的なターゲットと、競合に勝つための明確なコンセプトを策定する。
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周辺地域の平均稼働率
杉並区は都心に位置しますが、観光客の主要な宿泊エリアとは異なります。民泊の稼働率は、新宿や渋谷などの中心部に比べて劣る傾向にあります。しかし、三鷹台駅がジブリ美術館の最寄りの一つであること、周辺が落ち着いた住宅街であることから、ニッチな層(ジブリファン、長期滞在希望者、都心から少し離れた落ち着いた環境を求める層)に特化すれば、稼働率は50%〜70%程度を目指せる可能性があります。ただし、杉並区の厳しい規制をクリアし、通年運営ができればの話です。
運営した場合の想定年間利益(極めて悲観的なシナリオ)
賃料は都心にしては中程度ですが、莫大な改装費用と杉並区の厳しい規制を考えると、収益を出すのは極めて困難であり、赤字のリスクが非常に高いです。
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月額賃料: 242,000円
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年間賃料: 242,000円 × 12ヶ月 = 2,904,000円
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初期費用:
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礼金1ヶ月(24.2万円) + 保証金3ヶ月(72.6万円) + 初回保証料(賃料の50%として12.1万円) + 仲介手数料1.1ヶ月(26.62万円) + 保険(約2万円) = 約137.52万円
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改装費用+家具家電備品+旅館業許可関連費用: 築52年のカフェバー居抜きを民泊施設に改修し、質の高い家具・家電・リネン類を揃える費用は、最低でも500万円〜1,500万円以上と見積もるべきです。特に浴室の設置や耐震補強、消防設備対応は高額になります。
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合計初期現金支出(概算): 137.52万 + 500万 = 約637.52万円〜(これに加えて1ヶ月目の家賃)
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平均宿泊単価: 68㎡の広さを活かし、1泊1組30,000円(この単価で高稼働を維持できるかが鍵)
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年間営業可能日数:
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杉並区の規制が厳しいため、旅館業許可が取れない場合、年間営業日数は極めて制限される可能性が高いです。 (例: 土日のみ、年間52日など)。
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ここでは仮に旅館業許可が取れて365日運営できると仮定しますが、この前提が崩れるとシミュレーションは壊滅的になります。
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想定稼働率: 60%(都心近郊の住宅街でジブリ需要を考慮した、挑戦的な目標値)
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年間想定稼働日数: 365日 × 0.60 = 219日
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年間想定売上: 30,000円 × 219日 = 6,570,000円
ここから諸経費を差し引きます。
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プラットフォーム手数料: 売上の約10% = 657,000円
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清掃費・消耗品費: (1回8,000円として、219回分) = 1,752,000円
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光熱費・通信費: (月3.5万円と仮定) = 420,000円
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修繕積立費・その他雑費: (築古リスク考慮し、月2.5万円と仮定) = 300,000円
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運営代行費(アウトソースする場合): 売上の20-30% = 1,314,000円〜1,971,000円 (ここでは自力運営と仮定し含まず)
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年間総費用(賃料含む): 2,904,000円 (賃料) + 657,000円 (手数料) + 1,752,000円 (清掃) + 420,000円 (光熱費) + 300,000円 (その他) = 6,033,000円
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想定年間利益(税・初期費用回収前): 6,570,000円 (売上) - 6,033,000円 (総費用) = 537,000円
この計算では、年間で約53万円の黒字となりました。しかし、これは杉並区で旅館業許可が取れ、365日運営できた場合という極めて楽観的な前提に基づいています。実際には、初期投資(500万円以上)を回収するには10年以上かかる計算になります。さらに、杉並区の厳しい規制により営業日数が大幅に制限された場合、このシミュレーションは完全に破綻し、大きな赤字となります。
想定利益が低い場合の改善するためのアイデア
上記の通り、この物件で民泊として安定的な利益を出すことは極めて困難であり、一般的なビジネス感覚では「見送るべき」です。それでも挑戦したいというのであれば、杉並区の規制を徹底的にクリアする戦略と、唯一無二のコンセプトが必須です。
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杉並区の法規制を徹底的にクリアする戦略:
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何が何でも旅館業許可(簡易宿所)を目指す: 住宅宿泊事業法(民泊新法)では年間180日制限があり、杉並区ではさらに厳しいため、通年運営できる旅館業許可を目指すのが唯一の道です。そのために必要な改装・設備投資を全てリストアップし、実行する覚悟が必要です。
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区との綿密な事前協議: 計画段階から杉並区の担当部署と密に連携を取り、許可取得の可能性を最大限に高める。
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「カフェバー」としての活用も視野に入れる:
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民泊としての収益が厳しい場合、昼間はカフェ、夜間はバーとして営業し、民泊はあくまで副業、あるいは特定のシーズンのみの利用と割り切る。これにより、民泊の稼働率が悪くても、店舗営業で賃料を賄うことが可能になります。ただし、飲食店営業許可の取得や、民泊と飲食店両方の運営ノウハウが必要になります。
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超ニッチなターゲットとコンセプト設計:
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ジブリファン特化型: ジブリ美術館へのアクセスが良い点を最大限にアピールし、ジブリの世界観を取り入れた内装や、ジブリ関連グッズの貸し出しなど、テーマ性を強く打ち出す。
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地元体験型: 三鷹台・西荻窪の地元住民に愛される店やスポットを巡るツアーを企画するなど、地域密着型の体験を提供する。
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クリエイター向け多目的スペース: 静かで落ち着いた環境と地下倉庫の広さを活かし、写真撮影スタジオ、イベントスペース、少人数でのワークショップ会場など、多様な用途に時間貸しする。
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この物件は、「民泊相談可能」という甘い言葉の裏に、築古物件の莫大な改装費用、そして東京都杉並区という厳しい規制の壁が立ちはだかっています。賃料は「比較的」安いですが、その背景にある「見えないコスト」は非常に大きく、収益化への道は険しいでしょう。
あなたは、この物件がもたらす「都心近郊での民泊運営」という夢と「厳しい法規制と莫大な改装費用」という現実の間で、ビジネスを成功させるための「具体的な戦略と、それを実行する覚悟」を持っていますか?