物件情報
以下は今回診断する物件の概要です。
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住所: 東京都新宿区北新宿2丁目
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最寄り駅: 都営大江戸線 中野坂上駅 徒歩6分、東京メトロ丸ノ内線 西新宿駅 徒歩9分、東京メトロ丸ノ内線 中野坂上駅 徒歩9分
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賃料: 15.4万円
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管理費等: -
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敷金/礼金: 2ヶ月/3ヶ月
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使用部分面積: 27.3m2
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種別: 貸事務所
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築年月(築年数): 1972年12月 (築52年8ヶ月)
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特記事項: 角部屋、民泊可、外国籍NG(賃借人向け)、再契約料1ヶ月(税別)、再契約手数料別途0.3ヶ月(税別)
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設備: エアコン・バス・トイレ別・トイレ・洗濯機置場・都市ガス・室内洗濯機置き場・光ファイバー(ブロードバンド)・インターネット対応
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その他一時金: 事務手数料 11000円、鍵交換代 24200円
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契約期間: 定期借家 3年
詳細はこちらのURLをご参照ください: 物件詳細
民泊適正評価
この物件の民泊としての適正度は、正直に言って「限りなく低い」と言わざるを得ません。
家賃と初期費用の問題: まず、賃料15.4万円は新宿区とはいえ、27.3m2の貸事務所としては決して安くありません。特に、敷金2ヶ月、礼金3ヶ月に加え、事務手数料や鍵交換代を合わせると、契約時だけで賃料とは別に約80.5万円もの現金が飛びます。さらに、貸事務所を民泊仕様に改装するための内装工事費、家具・家電の購入費用、消防設備設置費用などを考慮すると、初期投資は軽く100万円を超え、数百万円に達する可能性もあります。この莫大な初期投資を、民泊で回収するのは至難の業です。
立地の問題: 「中野坂上駅徒歩6分、西新宿駅徒歩9分」は通勤には便利かもしれませんが、観光客が求める「新宿のど真ん中」ではありません。新宿駅周辺の繁華街や観光スポットへのアクセスは乗り換えが必要で、初めて東京を訪れる外国人観光客にとっては決して利便性が高いとは言えません。民泊はホテルとは異なり、立地が直接集客に影響するため、この「一歩外れた立地」は致命的な弱点となり得ます。
物件の構造と築年数の問題: 木造1階/2階建、築52年8ヶ月という築年数は、民泊運営において大きなリスクを伴います。
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防音性: 木造の古い建物は、隣室や上下階の音が響きやすく、宿泊客の騒音による近隣住民とのトラブルの温床となりやすいです。これは民泊運営で最も避けたい問題の一つです。
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断熱性・空調効率: 老朽化した木造建築は、夏は暑く冬は寒い傾向があり、快適な滞在を提供しにくい可能性があります。また、冷暖房効率が悪く、光熱費がかさむ要因にもなります。
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修繕費用: 築50年以上となると、水回りや建具、電気設備などの老朽化が進んでおり、予期せぬ修繕が必要になるリスクが高いです。特に貸事務所の場合、住居としての設備が不十分なこともあり、追加の工事費用がかかる可能性もあります。
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耐震性: 古い木造建築は、近年の耐震基準を満たしていない場合があります。宿泊客の安全を確保するためにも、耐震診断や補強の検討が必要になるかもしれません。
「民泊可」の罠: 「民泊可」という点だけを見ると魅力的に映りますが、これはあくまで「貸主が民泊利用を許可している」というだけで、成功を保証するものではありません。前述の通り、家賃、立地、物件の状態といった根本的な課題が解決されなければ、許可があっても収益化は難しいでしょう。
契約前に確認するポイント
この物件で民泊運営を検討するなら、以下の点を徹底的に確認してください。
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内装工事と設備投資の詳細: 貸事務所から居住空間への改修費用、家具・家電購入費用の見積もりを具体的に算出する。
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消防法への適合: 民泊施設として必要な消防設備(自動火災報知設備、誘導灯、消火器など)の設置義務と費用を確認する。古い木造物件は特に注意が必要です。
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近隣への配慮: 騒音対策(防音工事の可能性も含む)やゴミ出しルールの徹底、緊急時の連絡体制など、近隣住民とのトラブルを未然に防ぐための具体的な対策を検討する。
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光熱費の見込み: 古い建物のため、光熱費が高くなる可能性があります。概算費用を把握し、収支計画に含める。
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定期借家契約の更新条件: 3年間の定期借家契約であるため、契約終了後の再契約の可否、再契約料・手数料、更新時の賃料改定の可能性などを貸主に確認する。
周辺地域の平均稼働率
新宿区全体の民泊平均稼働率は、近年は**約75%〜80%**と非常に高い水準で推移しています。これは観光需要が旺盛なエリア特性を反映したものですが、あくまで「平均」であり、競争が激しいことも意味します。中野坂上という立地でこの平均値を維持するのは、容易ではないことを覚悟すべきです。
運営した場合の想定年間利益
あくまで概算ですが、上記の賃料と新宿区の平均データを用いて試算してみましょう。
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月額賃料: 154,000円
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年間賃料: 154,000円 × 12ヶ月 = 1,848,000円
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平均宿泊単価: 27,100円(新宿区平均)
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年間営業可能日数: 180日(住宅宿泊事業法による上限)
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想定稼働率: 75%(やや保守的に設定)
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年間想定稼働日数: 180日 × 0.75 = 135日
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年間想定売上: 27,100円 × 135日 = 3,658,500円
ここから諸経費を差し引きます。
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プラットフォーム手数料: 売上の約10% = 365,850円
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清掃費・消耗品費: (例えば月5万円と仮定) = 600,000円
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光熱費・通信費: (例えば月2万円と仮定) = 240,000円
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修繕積立費・保険料: (例えば月1.5万円と仮定) = 180,000円 (築年数を考慮し多めに設定)
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年間総費用(賃料含む): 1,848,000円 + 365,850円 + 600,000円 + 240,000円 + 180,000円 = 3,233,850円
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想定年間利益(税・初期費用回収前): 3,658,500円 - 3,233,850円 = 424,650円
この年間約42万円という利益は、初期投資(内装工事、家具家電、契約時の初期費用など)を考慮すると、回収に数年かかる計算になります。さらに、民泊は稼働率や宿泊単価が変動しやすく、予測通りにいかないリスクも高いことを忘れてはなりません。特に築古の物件は、予期せぬ修繕費用が利益を大きく圧迫する可能性があります。
想定利益が低い場合の改善するためのアイデア
もし上記のシミュレーションで利益が低いと感じるなら、以下のアイデアを検討し、慎重な再検討をおすすめします。
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徹底的なコスト削減:
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内装・家具のDIY: 可能な範囲で自分で作業することで初期費用を抑える。
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備品の選定: 高価なブランド品にこだわらず、IKEAやニトリなどコストパフォーマンスの良い製品を選ぶ。
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清掃のセルフ化: 自力で清掃を行うことで、清掃業者への委託費用を削減する。ただし、労力と時間、クオリティ維持とのバランスが重要。
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差別化による高単価設定:
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ターゲット層の絞り込み: ビジネス利用、家族旅行、特定趣味のグループなど、明確なターゲットを設定し、そのニーズに合わせた設備やサービスを提供する。
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コンセプトの明確化: 「和モダン」「レトロ」「ゲーム特化」など、他にはないユニークなコンセプトを設定し、SNSなどで発信する。
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長期滞在割引の導入: 清掃の手間が減り、稼働率の安定にも繋がる。
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付加価値サービスの提供: 周辺地域の情報提供、体験プログラムの紹介、送迎サービスなど、宿泊以外の価値を提供する。
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効率的な集客戦略:
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多言語対応の徹底: 外国人観光客をターゲットにするなら、予約サイトの掲載情報やハウスルール、案内などを多言語で用意する。
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写真と説明文の質向上: プロのカメラマンに依頼したり、魅力的なキャッチコピーを作成したりして、物件の魅力を最大限に伝える。
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SNSを活用した情報発信: InstagramやX(旧Twitter)などで、物件の魅力や周辺情報を積極的に発信する。
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レビュー管理: 宿泊客からのレビューに丁寧に対応し、高評価を維持する。
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代替案の検討:
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マンスリーマンションとしての活用: 年間180日の営業日数制限がないため、長期滞在需要を狙う。ただし、家具・家電は必須。
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通常賃貸としての運用: 民泊での収益性が低いと判断した場合は、通常の賃貸物件として貸し出すことも視野に入れる。貸事務所を居住用に改修する場合、別途費用と許可が必要な場合があるため注意が必要。
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民泊運営は決して楽な道ではありません。特に今回の物件のように、築年数が古く、貸事務所からの転用となると、想定外の出費やトラブルが発生する可能性が高いです。「民泊可」という甘い言葉だけに惑わされず、冷静な目で物件を評価し、徹底的な事業計画を立てることが成功への唯一の道と言えるでしょう。