物件情報
以下は今回診断する物件の概要です。
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物件名: 松3丁目2−9 -/2F+3F
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掲載元: LIFULL HOME'S
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住所: 大阪府大阪市西成区松3丁目2-9
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最寄り駅: 南海汐見橋線 西天下茶屋駅 徒歩3分
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賃料: 550,000円
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管理費等: - (なしと仮定)
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敷金/礼金: 無 / 無
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保証金/敷引・償却金: - / - (なしと仮定)
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面積: 258.72㎡(約78.26坪)
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間取り: 不明(2F部分 3LDK・142.10㎡、3F部分 2LDK・116.62㎡と記載あり)
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所在階/階数: - / 3階建(2F+3F部分)
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建物構造: 鉄骨造
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築年月(築年数): 1998年9月 (築27年)
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特記事項:
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民泊転貸可
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現状渡し
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飲食店不可
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保証会社加入要
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2F部分(3LDK・142.10平米)および3F部分(2LDK・116.62平米)
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※現在使用中の為、詳しい入居時期については要相談となります。ご了承ください。
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即引渡し可(現況空家と矛盾する記述あり)
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契約期間: 2年間
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その他費用: 住宅保険要
詳細はこちらのURLをご参照ください: 物件詳細
民泊適正評価:夢の高収益か、悪夢の高リスクか?
この物件の民泊適正は、正直に言って「経験豊富なプロのギャンブラー向け」です。賃料の高さと「現状渡し」「入居時期要相談」という不明瞭な点が、非常に大きなリスク要因となります。
【メリットとして期待できる点】
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「民泊転貸可」: これが最大の魅力。事業として民泊を許可してくれる物件は希少です。
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広大な面積: 258.72㎡(約78坪)もの広さは、大人数グループや複数家族での利用に特化でき、高単価を設定しやすいでしょう。複数ユニット(例:2Fと3Fで別々に貸し出す)での運営も視野に入ります。
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駅徒歩3分: 西天下茶屋駅徒歩3分は好立地。南海汐見橋線は乗り換えが必要ですが、主要駅へのアクセスは確保できます。
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築27年の鉄骨造: 築浅とは言えませんが、鉄骨造で築27年であれば、築50年超の木造物件よりは耐震性や基本的な設備の安心感はあります。
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初期費用が低い: 敷金・礼金、保証金が全て不要なのは、初期のキャッシュアウトを抑えられる点で大きなメリットです。
【致命的な欠点】不明瞭な契約条件と高額賃料の罠 この物件の最大の懸念点は、魅力的な「民泊転貸可」を打ち消すほどの不明瞭な条件と高額な賃料です。
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賃料55万円という高額な固定費: 毎月55万円の家賃は、民泊という日銭商売において、非常に重い負担です。1日あたりの家賃が約1.8万円にもなり、これを回収するためには、超高稼働率かつ高単価を維持し続けなければなりません。少しでも集客に失敗すれば、瞬く間に赤字転落です。
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「現状渡し」が意味するもの: 外観写真しかなく、内装の状態は全く不明です。飲食店不可であることから、水回りなどの設備は不十分な可能性があります。広大な面積を民泊仕様にするための改装費用は、数百万円どころか1000万円を超える可能性も十分にあります。この費用は全て借主負担であり、回収は極めて困難です。
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「2F・3Fは現在使用中、入居時期要相談」という謎: 「現状空家」「即引渡し可」という記述と矛盾しており、非常に不透明です。誰が、何のために使用しているのか? いつ明け渡されるのか? 契約してもすぐに引き渡されない、あるいはトラブルになる可能性を強く示唆しています。事業計画が全く立てられません。
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「飲食店不可」の意味: これは、ガスや給排水設備の状況が飲食店レベルではない可能性があり、民泊での調理設備設置にも制約があるかもしれません。
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西成区という立地と治安の懸念: 西成区は近年インバウンド需要で注目されていますが、一部地域では治安に懸念があることも事実です。ゲストが安心して宿泊できる環境をどう提供するかが課題となります。特にファミリー層や女性の一人旅には敬遠される可能性も考慮すべきです。
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賃貸保証会社加入必須: 高額賃料のため、保証会社の審査も厳しくなる可能性があります。
契約前に確認するポイント
この物件で民泊運営に踏み切るなら、以下の点を徹底的にクリアにしてください。
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「2F・3F現在使用中」の具体的な状況と引き渡し時期:
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誰が、何のために使用しているのか、その理由を明確にする。
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具体的な引き渡し時期を確定させる。 口頭ではなく、書面での保証を求める。
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もし引き渡しが遅れる場合の賃料発生や損害賠償の有無を確認する。
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「現状渡し」の詳細と内装の状態:
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必ず内覧を行い、写真や動画で隅々まで記録する。
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水回り(風呂、トイレ、キッチン)の設備状況、電気配線、給排水管、屋根、壁、床の状態を専門家(工務店など)を帯同して徹底的にチェックする。
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民泊利用可能なレベルに改修するための具体的な工事内容と費用を複数社から見積もりを取り、全て借主負担であることを覚悟する。
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賃貸保証会社の審査基準:
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民泊転貸の場合の保証会社の審査基準、保証料、必要書類などを事前に確認する。
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民泊に関する詳細な契約内容:
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「民泊転貸可」とあるが、具体的な運用ルール(最大宿泊人数、改装範囲、近隣への配慮事項、騒音対策、ゴミ出しルールなど)を貸主や管理会社と書面で確認し、契約書に明記してもらう。
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事業用契約となるため、契約期間や更新料などの条件も確認する。
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消防法への適合:
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258㎡という広さの場合、消防法の適用が厳しくなります。消防署に相談し、必要な設備(自動火災報知設備、誘導灯、消火器、防火管理者選任など)とその費用、必要な工事などを確認する。
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大阪市の条例・規制:
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大阪市の住宅宿泊事業に関する条例や規制(年間営業日数制限、管理体制、トラブル対応など)を確認し、全て満たせるか、また広さに対して必要な届出の種類も確認する。
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「民泊転貸」は、単なる民泊とは異なる法的な確認が必要な場合があります。弁護士などの専門家に必ず相談してください。
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周辺地域の平均稼働率
大阪市全体の民泊平均稼働率は**80%〜90%と非常に高い水準ですが、これはあくまで市全体の平均です。西成区はインバウンド需要が高いものの、ホテルや他の民泊物件も多数存在します。この物件の周辺エリアは住宅地であり、特に大阪有数の観光スポットというわけではありません。大型物件であるため、ファミリーやグループの需要は期待できますが、稼働率を70%〜80%**で維持するのは、相当な努力と戦略が必要となるでしょう。
運営した場合の想定年間利益(非常に厳しいシナリオ)
賃料55万円という高額な固定費と、莫大な初期投資を考えると、収益を出すのは非常に困難であり、赤字のリスクが極めて高いです。
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月額賃料: 550,000円
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年間賃料: 550,000円 × 12ヶ月 = 6,600,000円
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初期費用:
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敷金・礼金・保証金なしはメリットだが、仲介手数料(55万円×1.1ヶ月=60.5万円)、初回保証料(総賃料の100%=55万円)、住宅保険(2年で約2万円)などが発生。
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「現状渡し」の改装費用: 258㎡の貸店舗を民泊施設に改修し、家具家電備品を揃える費用は、最低でも1000万円〜2000万円と見積もるべきです。特に水回り(浴室、トイレ、キッチン)の増設・改修が複数箇所必要になることを考えると、さらに高額になる可能性もあります。
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合計初期現金支出(概算): 60.5万 + 55万 + 2万 + 1000万 = 約1117.5万円〜(これに加えて1ヶ月目の家賃)
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平均宿泊単価: 大型物件として、1泊1組35,000円(この広さで高稼働を狙うには強気な設定だが、これでなければ利益が出ない)
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年間営業可能日数: 180日(住宅宿泊事業法による上限)
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想定稼働率: 70%(大型物件かつ激戦区で、これはかなり目標が高い数字)
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年間想定稼働日数: 180日 × 0.70 = 126日
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年間想定売上: 35,000円 × 126日 = 4,410,000円
ここから諸経費を差し引きます。
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プラットフォーム手数料: 売上の約10% = 441,000円
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清掃費・消耗品費: (1回10,000円として、40回分程度※複数泊考慮、大型物件は清掃費が高い) = 400,000円
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光熱費・通信費: (広さがあるため、月5万円と仮定) = 600,000円
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修繕積立費・その他雑費: (月3万円と仮定) = 360,000円
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運営代行費(アウトソースする場合): 売上の20-30% = 882,000円〜1,323,000円 (ここでは自力運営と仮定し含まず)
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年間総費用(賃料含む): 6,600,000円 (賃料) + 441,000円 (手数料) + 400,000円 (清掃) + 600,000円 (光熱費) + 360,000円 (その他) = 8,401,000円
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想定年間利益(税・初期費用回収前): 4,410,000円 (売上) - 8,401,000円 (総費用) = ▲3,991,000円
この計算では、年間で約400万円もの赤字という悲惨な結果になりました。これは、超高額な改装費を回収するどころか、年間の運営だけでも莫大な赤字に陥る可能性が非常に高いことを示唆しています。賃料が高く、改装費が青天井な上に、集客も決して楽ではないため、素人が安易に手を出せる物件ではありません。
想定利益が低い場合の改善するためのアイデア
上記の通り、この物件で民泊として安定的な利益を出すことは極めて困難であり、通常のビジネスセンスでは「見送るべき」としか言いようがありません。それでも挑戦したいというのであれば、超絶的な資金力、独自のネットワーク、そして運が必要になります。
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「コンセプト特化型」の超高単価施設:
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VIP・富裕層向け: 数千万規模の改装を施し、超豪華な内装や設備(プライベートシェフ手配、送迎サービスなど)を提供し、1泊数十万円といった超高単価を設定。ただし、集客チャネルが特殊かつ限定的。
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長期滞在型企業研修施設: 会社や団体の研修施設として貸し出す。民泊の180日制限とは異なる契約形態を模索する。
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イベント・パーティー・撮影スタジオ併用: 宿泊以外の用途(イベントスペース、パーティー会場、撮影スタジオなど)としても貸し出し、多角的な収益源を確保する。ただし、騒音問題や通常の民泊とは異なる運用ノウハウが必要。
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改装費の劇的な圧縮(ただしリスク大):
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「現状渡し」を逆手に取り、極めてミニマムな改装で済ませる。例えば、内装はDIY塗装のみ、家具も最低限で済ませるなど。ただし、これではゲストの満足度が低くなり、レビュー評価が悪化し、集客に繋がらない悪循環に陥る可能性が高い。
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建材や設備を安価で大量に調達する独自のルートを持つなど、プロの不動産開発業者並みの手腕が求められる。
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徹底的な集客チャネルの開拓とプロモーション:
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国内外の旅行エージェントや富裕層向けコンシェルジュサービスとの提携。
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SNSや専門メディアでの、他にはない「体験」や「空間」を徹底的に訴求するプロモーション。
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京セラドームでのイベント開催情報を常に把握し、イベント連動型のプロモーションを強化する。
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この物件は、「民泊転貸可」という魔法の言葉で飾られた、非常に高リスク・高額投資が必要な物件です。敷金・礼金なしというメリットは、月55万円の賃料と現状渡し改装費という地獄に比べれば、あまりにも些細です。 リスクの高い物件であることを前提に、運営するかどうか検討すべきです。